『本の世界をめぐる冒険』(NHK出版)の読書感想文
ナカムラ クニオ(著)
2020年6月出版/737円(税込み)/A5判/1色刷り、表紙カバーなし
112頁/右開き、文字は縦組み/1ページ37文字×15行
柱:章タイトル、左上真ん中
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最近、様々なジャンルの歴史ものが人気です。
職業柄、本の歴史が学べるものはあるのかなと思っていたところ、
誰も教えてくれなかった、教養としての「本の世界史」
というキャッチフレーズを見かけ、思わず手に取って読んでみました。
値段がお手頃なのも良いですね。
<目次>
1.全体の構成
本書は、出版界の過去として、本の世界史・日本史、
現在として、日本や世界の本屋・図書館、
そして、これからの出版界の展望として、読書会などが紹介されていました。
最近、本が売れなくなったと言われていますが、それは紙媒体のこと。
電子書籍やインターネットの登場で、文字を読んだり触れたりする時間は増えていると言います。
著者の言うように、出版界は、
本は、人と情報をつなぐ情報伝達の手段
ととらえ、柔軟な姿勢が、今後、ますます必要になっていくように感じました。
2.興味深かった本の歴史
起源は、オーディオブック!?
本書によりますと、はるか昔は
語り部がいて、本は音で聴くもの。それが文字に起こされるようになった
そうです。
また、その文字を起こす先が、
粘土板、パピルス、羊皮紙、亀の甲羅や動物の骨、竹簡、木簡、紙と広がります。
これだけでも、本の発展が感じ取れますね。
写真集や画集・作品集の元祖とは
これが、元祖のようです。
なお、嵯峨本は、京都嵯峨で出版された版本を指します。
また、
嵯峨本は、少部数の製作でしたが、キラキラ光る雲母刷りの用紙を使ったり、様々な色の紙が用いられていたり、意匠が凝らされた美しい装丁だったりと、のちの出版に大きな影響を与えたことで知られています。
とのこと。
この時代から、用紙にこだわって本を作っていたのかと思うと、感慨深かったです。
そして、
これは、現在で言う写真集や画集・作品集などの豪華限定本です。
表紙に特殊な紙を使い、金で箔押しするという発想は、その後、明治、大正、昭和にかけて続き、現在でも受け継がれています。
嵯峨本は、特殊な紙を使い金を箔押しするなど、今より、作りこんだ本のようですね。
一度、生で見てみたくなりました(どこで見られるのだろう??)。
江戸時代からある、出版プロデューサーとベストセラー
江戸時代で木版印刷による出版が盛んになると、浮世草子、黄表紙、洒落本、滑稽本などが出版され、一般にも広く読まれるようになりました。出版元としては、江戸後期の出版プロデューサー蔦屋重三郎がよく知られています。彼は、江戸出版界のヒットメーカー、名プロデューサーとして名を馳せた人物です。
興味を持ったので、いろいろ調べていると、よくまとめられたサイトがありました。
ご参考まで。
また、本書で、蔦屋重三郎は、
企画、制作、販売を一手に仕切り、大ヒット作を量産しただけでなく、自ら多くの新人を発掘して人気作家に育て上げました。
と紹介されています。
そして、蔦屋重三郎の時代、
江戸時代では、ベストセラーに似たような言葉として「千部振舞」という習慣があったとか。1000部売れたら、本屋さんは総出で氏神さまへお参りに行ったそうです。
とのこと。
このような方々がいて、今の日本の出版界があるのだなと想いを馳せました。
3.現在の多様な読書会
最近、下記のように、読書会がいろいろな形で開催されていると知りました。
系読。関係のある書籍を系統だてて学ぶ読書。
妄読。内容を妄想して語り合う、読まない読書。
交読。お互いに本の内容を紹介し合う読書。
先日、ブログでも書いた「ビブリオバトル」もそうですが、
多くの方と、本への思いや感想を共有できる機会が増えているのは良いですね。
editorbookreview.hatenablog.com
以前に比べると、書店の数も少なくなり、書店で本に出合う機会が減ってきました。
このような読書会は、出版社でも積極的に開催していってもいいのかもしれません。
4.検索しやすい参考文献の表記
参考文献の表記が良かったので、ここで紹介します。
本文の最後に
「本」の全てを知るためのブックガイド
として、下記のようなカテゴリーを立てて、ブックリストを挙げていました。
これが参考文献も兼ねています。
・本の世界史を学ぶ
・本の日本史を学ぶ
・世界の本屋さんについて学ぶ
・日本の本屋さんについて学ぶ
・図書館について学ぶ
・本の読み方について学ぶ
・紙・製本・装丁などの本の知識を学ぶ
・「本」にまつわるおすすめ本
検索もしやすいですし、良いですね。
5.参考になった点
・読書会は、本と読者をつなぐ良い会。
・昔の出版や出版プロデューサーから学ぶことも多い。
・参考文献を、カテゴリーを立てて整理する見せ方は良いな。